ライブレポート

奇妙礼太郎(IMAIKE GO NOW)【ライブレポート】

誰が呼んだか「今池に今、行け」を合言葉に、名古屋のディープタウン「今池」で開催されたサーキットイベント「IMAIKE GO NOW 2022」今池得三での奇妙礼太郎のライブをレポートする。

text by 柴山順次
photo by ニイミココロ

ステージに奇妙礼太郎が登場するだけで得三全体が独特の空気に包まれる。まだ何もしていない。ステージ下手からそそくさと歩いてきてIMAIKE GO NOWのバックドロップを眺めているだけ。たったそれだけで空間全てを支配してしまう奇妙礼太郎。椅子に腰掛け「宜しくお願いしまーす」と軽く挨拶をしたかと思ったら間髪容れずに「humming bird」を歌い出すもんだから、その突然の出来事にあっけに取られるが、でも奇妙礼太郎の歌声ひとつが心ごと一瞬で掴んでくる。「ルールルルールールー」とハミングバードの鳴き声なのかハミングバードを呼ぶ声なのか、その声の行方は分からないけどその美しい声が得三に響くとそこは熱帯地方もしくは奇妙礼太郎の部屋に訪れたように感じる。ふわふわしてるんだけど静かなる力強さもあって不思議な魅力に包まれる。「飛びたいよすぐに 出来るだけ高く」という歌詞も勝手な解釈で涙腺を刺激してくる。続く「アスファルト」でまだライブも始まったばかりだと言うのに得三の一番後ろに立ったまま涙を抑えきれなくなる。声をギリギリまで振り絞るように歌いながら心のずっと奥の方にまで突き刺してくる。「大丈夫な道が続いてる 見えなくなるまで見送ったげる」「誰かを和ませることだけに集中していたい」というメッセージの包容力と深さたるや。

ニューアルバム『たまらない予感』から「竜の落とし子」「あたいのジーンズ」が立て続けに披露される。「竜の落とし子」では「笑えない悲しみをさざ波が連れてゆく」「悔やむような人生などあり得ない」と2011年3月11日の震災を連想させる歌詞に胸が詰まる。そんな中、奇妙礼太郎が口を開く。何を話すのか耳を澄ますと「子供の頃、ゴムボートで流されたことがある」「クラゲに刺されて、一緒にいた親戚のおじさんに死ぬぞと言われた」「泣いていたら腹を抱えて笑われた」という話が続く。これ、なんの話だろうと思っていると「優しくされてます?優しくされてね」と「あたいのジーンズ」に続く。「返してよ青い夢 返してよ青い春」という言葉が並ぶこの曲に人に優しくありたいなと思うけど「何とも思ってないのに心配しないで」という歌詞が飛び込んできてハッとする。いや、何とも思っていないわけじゃないんだけど、でもね。しかし奇妙礼太郎の歌や言葉にはひとつひとつ考えさせられる。

ここで奇妙礼太郎はドン・マクリーンがゴッホについて歌った「ヴィンセント」のカヴァーを披露した。正確には「ヴィンセント」をカヴァーしたジョアンナ・ウォンのカヴァーというべきか。まるで得三に星が降り注ぐような優しい歌声に身を委ねる。すると今度は「ゴリラが好き」と語り出す奇妙礼太郎。彼曰く、ゴリラは猿より人に近いらしく、じゃあ人が何故繫栄したかというとコミュニティやコミュニケーションがあったからだという。確かに1人でいると本当に1人の気分になることがある。昨年コロナに感染し3週間ほど他者との会話がなかったときにとんでもない孤独を感じた。コロナから回復した後はコンビニで人に会うことにすら感動したのを覚えている。奇妙礼太郎は「名前も知らない他人かもしれないけど、ここライブハウスで一緒にいることだって力になる」と続ける。確かに今、得三で一緒に奇妙礼太郎のライブを観ている僕らは他人だ。でもその他人の中に自分がいて、時間を共有して、共存している。「ゴリラが好き」から凄いところまで話が繋がったけど、奇妙礼太郎の音楽も言葉も考え方も、全部ひとつのことを話しているから説得力がある。「大事な話」では「想いは放さずに気持ちは話さないと」と歌っていた。話さないと、会話しないと、対話しないと、何も始まらない。僕と君と君と君は違う人だから考え方も違って当然で、その違いを受け止めて受け入れることが大事なんだろうと得三に集まったひとりひとりの顔を眺めながらぼんやり考えていた。大事なことこそ相手も自分も聞いてないことがあったりするけど、ちゃんと話せばわかり合える気がする。それは友達でも家族でも国同士でも。話が飛躍し過ぎかもしれないけど、奇妙礼太郎のライブは身近なことから大きなことまで「全部自分のことだよ」って教えてくれるものなのかもしれない。だから向き合ってちゃんと会話したい。それが僕にとっては奇妙礼太郎のライブを観ることだったりする。

▼LIVE 情報
奇妙礼太郎 「たまらない予感」 Release One Man Live
2022年06月08日(水)
OPEN PM 6:00 / START PM 7:00
NAGOYA CLUB QUATTRO
前売5000円(税込,ドリンク代別途必要)全自由・整理番号付

関連記事

ONLINE SHOP