怒髪天

怒髪天が放つ「まさに今!」なアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』は、怒髪天というバンドの懐の大きさ、心の大きさをそのまま形にしたような作品だ。配信アルバム『チャリーズ・エンジェル』、蔵出しカバー集『風雲!歌謡侍 vol.1』の緊急事態リリース、無観客生配信ライブ、日比谷野音大音楽堂での有観客ライブと、コロナ禍においてもなお攻め続けた彼らがこの激動の最中に何を歌おうとしているのか。そこには先の見えない不安や絶望をユーモアの剣でモヤモヤを切り裂く4人の姿があった。PMAならぬHMAで歩き続ける怒髪天・増子直純に話を訊く。

 

2YOU:色んなことが全部ひっくり返ってしまって、音楽の持つ力を改めて考えることも増えたのですが、2020年5月の苦しい時期に配信アルバム『チャリーズ・エンジェル』を聴いて「孤独のエール」に本当に救われたんですよ。

増子:「孤独のエール」はそれこそ震災の頃からずっと歌いたかったことなんだけど、無責任に「頑張れ」って言葉があまりにも言われ過ぎている中で、結局自分で言うしかないんだよってことが歌いたくて。自分で言えば自分で頑張れるでしょ。所謂頑張れソングってさ、ちょっといかがなもんかというのがずっとあったけど、個人的には頑張れソング意外と好きなの(笑)。人の歌ってるやつはね。ただ俺がやるっていうのであれば「孤独のエール」みたいな感じになるんだよね。

 

2YOU:怒髪天の曲は直接的に誰かに頑張れという曲じゃなくても、結果聴いた人がみんな頑張ろうと思える、そういうメッセージはずっと含まれいると思っていて。

増子:スポーツ選手が頑張ってるとこ見ると自分もやんなきゃなと思うじゃん。「あいつも頑張ってるんだから、俺も頑張ってみようかな」って。人に頑張れって言えるってスゲーなと思うから。だって言う資格というかさ、言う程の事やってないから。でもこの曲が最初に出来て、リード曲が出来たからアルバム的には色々と遊べたから良かったけどね。

2YOU:この時期にちゃんとユーモアのある作品が聴けたことも嬉しかったです。

増子:世界的にどんよりするような状況の中でさ、アーティスト個人の心情を吐露されても小っちゃくて聴いてらんねえじゃん。今それどころじゃねえだろってなっちゃうし。だからって今のこの状況を敢えて避ける必要もない。シリアスな局面であればあるほどユーモアって大事だと思うんだよ。コンプラうんぬんとか、これまで世の中があらゆることを明確にきっちり詰めてきたんだけど、結局それがコロナによって全部崩壊してさ。「ヘヴィ・メンタル・アティテュード」っていうタイトルもそうだけど、強い心を持つことは大変かもしれないけど、ズボラでだらしなくてもいいから、でかい心でもっと俯瞰して、もっと大きな視点からみると小さなことと思えるってことをコンセプトでまとめたアルバムかな。ちょっとだらしなかったり、ズボラだったり、ちょっとずるかったりすることが許されないような世の中になっていたのが、そういう心情が少しでもないとやってられない状況になっているからね。真逆になったんだなって。

 

2YOU:スーダラ節がOK とされてた頃に戻らないといけないのかなって。そういう意味では今回のアルバムも思いっきりユーモアというか、CDを再生した瞬間、間違えたかと思いましたもん。

増子:地球的な規模でメッセージを発するならばスタジアムロックのダサさと力強さだと思ったんだよ。ロックは今かっこいいものじゃないと思うんだよね。ロックっていうのはダサいところがいいところなんだよ。歌詞のオーダーを受けることはほぼないんだけど「SADAMETIC 20/20」に関してはとにかくスケールのでかい歌詞を書いてくれって言われて。「でかいってどれくらい?」って聞いたら「宇宙くらい」って言われて、結局宇宙戦艦ヤマトくらいの規模のでかさになるっていう。それくらい大きい流れの中で見ると、疫病だって人間は何度も乗り越えてきたし、今それを超える役目に自分たちがたまたま選ばれてしまったんだなって。それと戦うためには自衛手段しかないよね。俺らワクチン作れないから。ただなるべく人員を減らさないということに神経を割いていく、とにかく生き延びるということだけを第一目標としてやっていくってことなんじゃないのかなって。

 

2YOU:それが「人間たちよ」という呼びかけに繋がると。

増子:何様目線だよってね(笑)。でも馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうくらい今はシリアスな状況なんだよな。ほら葬式の時とかもなんか笑っちゃうときあるじゃない。それに近いものがあるよね。絶対笑っちゃいけないんだけど。

 

2YOU:この状況の中で、面白いことすら面白いと言えない空気もあるじゃないですか。それをちゃんとOKにしてくれるのが怒髪天の持つユーモアだったり、そういう部分なのかなと思っていて。「ヘイ!Mr.ジョーク」とかまさにですけど。

増子:親戚のおっさんだったり、近所のおやじだったりさ、「もう何やってんだよ」って普段思うおっさんとかいるじゃない。でもこういう時こそ、葬式で屁こくようなオヤジが俺たちの現状のガス抜きになるというか、救いになったりするでしょ、社会の。その重要さが今になって分かるっていうか。

 

2YOU:「ヘイ!Mr.ジョーク」はどうしても志村けんさんが浮かんでしまうんです。今このとき、一番いて欲しかったなと。

増子:本当だよな。普段から色んなことをプラスに変えていかなきゃいけないと思ってるんだけど、コロナばっかりはそうは思えなくて。

 

2YOU:震災もですが、起きたことをプラスにしてかなきゃいけないことは分かってるんですけど、そう割り切れない部分がどうしてもあって。

増子:震災の時は、まだ他の地区の元気な奴らが「よし支えていこう」って出来たけど、世界中が誰も誰かを支えられる状況じゃないからね。ただもう自衛手段を確立して嵩じて騙し騙しやっていくしかないから。ライブハウスだって悪者になっちゃうんだから。よくないのはライブハウスじゃなくて密になることなのに。

 

2YOU:「駄反抗王」はまさにそういう歌ですよね。

増子:そうだね。密がよくないのにさ、ライブハウスでやってることまで批判されたことに対して「そういうことじゃないんじゃない?」と言いたかったのはあって。ただ今までみたいに根性とかそういうのは通用しない事態だから、じゃあどうすんだって答えもないんだけど、とにかく密を避けるとか、感染予防するとか、手を洗うとか、うがいするとか、マスクするとか、それをやるしかないよね。ライブハウスで密になっちゃいけないってのはそれは勿論そうだよ。でもやってることを否定するのはやっぱりお門違いだよな。

 

2YOU:「駄反抗王」では「こんな時に歌なんか要らない」「映画なんか要らない」という言葉も並んでいますが、その中でどう抗っていくかっていう。

増子:こういう時にエンタメが一番最初に切り捨てられるってことが身を持って分かったからね。いよいよ国がきな臭くなってきたなって時に、一番最初に赤ランプがつくところなんだなって。そこに制限がかかってくるってことは思ったよりやばい状況になってるよってことだと思うし。そこに制限をかけられることについてのアンチテーゼとして、パンクだったら「奴らを吊るし上げろ」的なことになるんだけどさ、俺にやれることって何かなって思ったら駄々こねることくらいしかないんだよ。駄々こねることを北海道弁でだはんこくっていうだけど、だったら思いっきりだはんこいてやろうって。

 

2YOU:それで「駄反抗王」なんですね。駄々こねていきたいですよね。

増子:ムーブメントとか活動とかさ、そういうものよりもっとパーソナルなものでいいから、個人的にそういう意識を持てればいいかなって思うよね。

 

2YOU:今作の素晴らしいのはシリアスなワードをシリアスに使わないところだと思うのですが、「ポポポ!」でもお得意のお酒SONGにアルコール消毒という言葉をぶち込むあたり流石だなと。

増子:アルコール消毒って言葉自体がシリアスな意味を持ってしまったけどさ、この程度の意味で使えるような世の中に早く戻ってほしいなって気持ちを込めたんだよね。俺はもうお酒の歌はいらないっていったんだけど友康(上原子友康)が1曲くらい作って欲しいっていうから。「いや、もういいよ」って言ってたんだけど。だから2番で「またまた出ましたお酒の歌よ」って自分で突っ込んでいるっていう(笑)。

 

2YOU:でも結果的に時代ともマッチした曲になりましたよね。

増子:基本にあったのは色んなものに毒された中で酒でも飲んで協力しあおうよって曲だったんだけど、曲を作った5月とはまたちょっと違う意味合いにもなったりして。同じ歌詞でもそのときそのときで捉え方が変わってくるから音楽って面白いよね。そのときの状況に曲が合ってくるんだよ。それは歌っていてもそう思うな。

 

2YOU:怒髪天の曲ってその時代を切り取ったものが多いじゃないですか。だけど昔の曲でも今聴いたらちゃんと今の曲なんですよね。

増子:それは思考錯誤を経てなんだよね。これはやってみて分かったことなんだけど、所謂流行りのワードみたいなのを入れると後から聴いてて違和感を感じるんだよ。だから「それ今言わねえよ」って言葉とかは入れないようにしてて。だけどそこを躊躇するのも、もういいかなって思ってるけどね。昔の写真を見てダサいズボン履いてるなって思うけど、そのときそれがかっこ良かったならいいじゃんって思うのと一緒だね。

 

2YOU:アプローチの仕方が違うだけで怒髪天が歌ってきたことは一貫していますしね。『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』というタイトルもまさに今だからこそのタイトルですけど、それってずっと怒髪天が掲げてきたことでもありますし。

増子:「でっかく行こうぜ」っていう大雑把なスローガンって結構大事だと思うんだよ。「でっかく行こうぜ」って「色々気にするな」ってことだから。世の中みんな、人のことを気にしすぎなんだよ。なんかこう神経質になりすぎてるじゃない?

 

2YOU:「でっかく行こうぜ」とは真逆ですよね。

増子:コンプラだのなんだの大変なんだから。モンスタークレーマーの言うことまで気にしちゃってさ。ライブをすることだってそういうのを気にして中々踏み出せないバンドとか会社とかあると思うんだけど。「これならやっていいよ」って言われたことをやって、それで駄目だって言われたら逆ギレするくらいの勢いを見せるのが俺らの仕事だと思うんだよね。仲間のためにも。だから9月にキャパ半分にしてでも野音をやったんだよ。

 

2YOU:ライブで増子さんがいつも言ってる「よく来たな」とか「また生きて会おう」って言葉が今は本当に染みます。

増子:今言ったらシリアスになっちゃうよね。マジで死ぬかもしれないんだから。でもさ、俺らでどうにか出来る問題じゃないし、休みも増えたから、その間に体を鍛えたり、ギターを練習したり、そういうスキルアップのための時間は一切使わないようにしたの。

 

2YOU:あ、逆に(笑)。増子さんは何をしていたのですか?

増子:死ぬほどゲームしてた。

 

2YOU:あははは。

増子:むちゃくちゃ無駄に時間を使ったよ。こういう時こそ神経を鈍らせるじゃないけどさ。1日18時間くらいゲームしてたからね。あと映画ね。観たいと思ってた映画は勿論だけど、相当時間が無きゃ見ねえだろうっていう、見終わった後に時間を無駄にしちゃったなって思うようなアニメの実写版とか観たからね。無駄でしかないよね。

 

2YOU:そういう不要不急なものも全て活きてきますからね。

増子:プラスにはなって無いけど、反面教師にはなるだろうっていうね。でもさ、無駄に過ごすって贅沢だよね。貧乏暇無しでさ、働かなきゃいけないところを贅沢させてもらったよ。無駄っていいよ。お金の無駄遣いもそりゃドキドキするけど、時間の無駄遣いもなかなかドキドキする。「こんなに時間無駄にしていいの!?」って。

 

2YOU:ドラゴンボールを集めると永遠の命を欲しがる人がおおいじゃないですか。それってやっぱり時間が欲しいんですかね。

増子:永遠の時間があっても困るだろ。それこそ見なくていいものも見ることになるし、大体そうやって永遠の命を手に入れた奴はどんな物語でも最終的に殺してくれって言うじゃん(笑)。

 

2YOU:限りがあるからこそ人生を豊かに過ごそうと思うんですよね。

増子:頑張れるよね。

 

2YOU:人生を彩る要素として今この時代に怒髪天がいて本当に良かったですよ。

増子:そう思ってくれたら嬉しいけどね。こういう時こそ馬鹿馬鹿しいものって必要なんじゃないのって。

 

2YOU:その最たるものが志村けんさんだと思うので、この喪失はめちゃくちゃ大きいなと。

増子:よりによってね。あとはコロナで自殺が多くなってるっていうでしょ。嫌になっちゃう気持ちは分かるんだよ。でもさ、このままじゃないから。絶対良くなるから。だけどそう思えなくなっちゃうんだろうな。怒髪天、聴けばいいのにな。そしたら「まいっか」って思えると思うんだけどな。若者の死因の1位が自殺じゃない国ってのは、治安が悪いか衛生状態が悪いかどっちかだから、国の在り方としては健全なんだけど、自殺の割合が増えてるからね。それも教育なんだろうなあ。

 

2YOU:増子さんに教壇に立って欲しいですけどね。

増子:ダメダメ。すぐ問題起こすよ。ぶん殴ると思うから。三者面談で親呼んで親ごとぶん殴っちゃうから(笑)。

怒髪天
タイトル:ヘヴィ・メンタル・アティテュード
初回限定盤【CD+DVD】TECI-1708 ¥4,000(+税)
通常盤【CD】TECI-1709 ¥3,000(+税)

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