結成10年を迎え自主レーベルGutz Ballを設立し、完全オリジナルな存在へと進化を遂げたENTH。音楽スタイルも生活スタイルも自分達が今夢中になれるものだけをひたすら体現する彼らのその生き方を、血となり肉となり音となり言葉となり、ENTHとして発信する3人。「音楽とはジャンルではなくアティチュードである」と、かのジョー・ストラマーが残しているが、ENTHのアイデンティティはまさにそれ。自分にとって面白いものだけを、他の誰の意見も気にせず吸収し吐き出すENTHの規格外な在り方とやり方がそのまま形になった『NETH』を完成させたdaipon、Naoki、takumiの3人にアルバムについて語ってもらった。
2YOU:今作はENTHの生活がそのまま表れたアルバムだなと。
Naoki:完全にそうですね。
2YOU:僕はENTHのみんなと本当によく会いますけど、昼に会うENTH、夜に出くわしたENTH、真夜中のENTH、朝を迎えたENTHがそれぞれ曲に落とし込まれていて、アルバムを聴いていると目の前にみんながいるみたいなんですよ。
Naoki:さすが。確信をついてきましたね。
daipon:昼も夜も夜中も朝方も全部形にしました。だんだん音楽が生活に寄ってきたっすね。
2YOU:ENTHって勿論バンド名ですけど、そもそも造語じゃないですか。だから3人のライフスタイルやライフワークに名前を付けたらENTHなんじゃないかなって。
Naoki:そう言われるとめっちゃかっこいい(笑)。
2YOU:ここまでテーマが明確な作品もENTHにしては珍しいですよね。
daipon:今回はリフやメロディに名前を付けるようにテーマを考えたんですよ。音に対して何を歌うか考えていったら生活そのものみたいな作品になりました。
2YOU:アルバムの制作はいつ頃から行っていたのですか?
daipon:年明けから始めていたんですけど、ひとつ言えるのはコロナがなかったら間に合ってなかったです(笑)。自粛期間はゴリゴリに焦って曲を作ってました(笑)。あの期間、普通にライブを入れてたら絶対間に合わなかったですからね。アルバムも7曲くらいのボリュームになってたかも。
Naoki:ジャケも適当になったりね。
daipon:どんどん締切が近付いて「俺描きます」みたいな。危なかった(笑)。
2YOU:今作はパッケージにもかなり拘っていますもんね。
daipon:10周年だし、フルアルバムだし、物として欲しくなる作品を作りたかったんですよ。それはマーチとかでも一緒ですけど。
2YOU:何がかっこいいか、何がかっこ悪いか、自分の中の基準がはっきりあって、でも周りの意見とか流行りとかシーンとか、そこは全く関係ないところで肌感覚で後先考えずにやっているのがENTHらしさだと思っていて。
daipon:流行りとかは全然関係ないですね。自分が今好きなものだけやるっていう。
Naoki:でも「これ、分かってくれるかな」って不安はあるよね(笑)。
daipon:それはゴリゴリにメロコアだった頃から変わってないけどね。かっこいいことを追求するっていうより、さっき肌感覚って言ってもらいましたけど、そういう雑い感じでやってるのが俺らっぽいと思うんですよ。熟考して取捨選択するんじゃなくて、かっこいいかダサいかだけっていう。
2YOU:誰にも何も文句言わせない説得力があるんですよね。その説得力を裏付けるのが何かって言ったら、着てる服だったりお酒だったり夜の遊び方だったり、セーフとアウトのギリギリの部分もありつつ、それが音楽に反映されていることなのかなって。
Naoki:セーフとアウトのギリギリ(笑)。
2YOU:daiponさんとNaokiさんの遊び方を見てたら(笑)。ちなみにtakumiさんはふたりをどう見てますか?
takumi:うーん。
daipon:無!(一同笑)
2YOU:やんちゃなお兄ちゃんズに付き合わされて(笑)。
daipon:あははは。
takumi:2年くらい前はふたりと同じノリでついていかなきゃって思っていたんですよ。でも今は逆に何も考えてないです。そこは頑張らなくていいなって。だってふたりみたいになろうとしたらキャラを作らなきゃいけないじゃないですか。俺、全然そういう奴じゃないのに。
daipon:まあ、俺達みたいな奴だらけだったら日本は終わってますよ(笑)。
2YOU:そんなENTHが作り上げた等身大のアルバム『NETH』ですが、1曲目の「BLESS」からアイデンティティが炸裂しまくっているなと。「構わずはみだす」とか「娯楽のない未来いらん」とかパンチラインだらけで。
daipon:「BLESS」はSPARK!!SOUND!!SHOW!!とのスプリット『#ワイタイスカッ』にも入っている曲なんですけど、ツアーも出来なかったし、時期も時期だったからあんまり届いていない気がして。でも「BLESS」って今のENTHらしさが凄く出てる曲だと思うから、アルバムでもう1回ちゃんと聴いてもらいたくて。それで1曲目にしたんですよ。スサシとは改めて遊びたいっすね。
2YOU:「M.I.P.S.」ではENTHの遊び場というか、生息地だったり生態が歌われていると思うのですが、これこそまさにレップソングだなと。
Naoki:結構最近まではレペゼンしてる気もなかったんですけどね。
daipon:今でもないよ(笑)。
Naoki:でもなんとなくあるじゃん、女子大好きだし。
daipon:でもツアーで朝方女子大に帰ってくるとうんざりするじゃん。カラスがゴミを漁ってるし、ホスト終わりの女の人が地面に寝てるし。汚ねえ街だなってずっと思っていて。だから「この街を背負って」とかは全くないっす。だけど俺らは毎日ここで遊んでるし、ホームであることは間違いなくて。
2YOU:そんな女子大を舞台にENTH発信でちょっとしたカルチャーを生み出しているのも面白いですよね。
daipon:女子大にはR.A.D(ライブハウス)があって、DERP(バー)があって、しげバーガー(夜中のみ営業の移動ハンバーガー屋)があって、みんなこういう流れで遊ぶみたいなのは生まれてますよね。
2YOU:しげバーガーで並んでいたら若いバンドマンが来て、ひとりがトラックにステッカーを貼ろうとしたんですよ。そしたら別のひとりが「待った。ENTHに怒られるよ」って言ってて(笑)。
Naoki:あははは。怒らんわ!
daipon:おもしろい(笑)。
Naoki:でもしげバーガーのトラックに最初にステッカーを貼ったのは俺達だよね。
daipon:そうやって話が勝手に独り歩きしてる感じやばいですね(笑)。
2YOU:「SOBER」はそんな夜を経た二日酔いの状態がそのまま出ていて。ギターソロとか完全酔ってるなと(笑)。
Naoki:頑張って下手クソに弾きました(笑)。ちょっとギタリストっぽいタッチが出たら逆にNGが出るっていう(笑)。
2YOU:要所要所で入っているスキットも最高です。Naokiさんの笑い声をミックスしたトラックとか。
daipon:あれも携帯に入ってるNaokiの動画の声をそのままマイクで拾ってやったんですよ。
takumi:「めっちゃ怖い」って言葉が入ってるけど、本当によく言うよね。
Naoki:それ、音源聴いてめっちゃ思った。俺、いつも言ってるよね。このときは泥酔したdaiponの右手が血だらけだった日かな。めっちゃ怖かったもん(笑)。
daipon:西成の打ち上げ終わりでしょ?あの動画はさすがにアウト過ぎて俺でもアップ出来なかったわ(笑)。
Naoki:音源になって報われたね(笑)。
2YOU:なんでもエンターテイメントにしちゃうのは「SECRET」に表れていますよね。daipon:この曲はまさにそういうイメージです。
2YOU:takumiさんがスネアを6発叩く部分で滅茶苦茶興奮しました。
Naoki:あれ、メロコアドラマーが憧れるやつですよね。
2YOU:ENTHって捻くれてるから逆にああいう王道パターンがくると逆に新鮮に聴こえるんですよ。takumiさんは今作のドラムで意識したことってありますか?
takumi:ないです。(一同笑)
2YOU:安心しました。大丈夫、何もないだろうなと思って聞いたので(笑)。
Naoki:あははは。そこもtakumiの良さなので。
daipon:良さ…か?(一同笑)
2YOU:「MESSY MASH」はもう色々と凄い曲だなと。まずはクリーンでスラッシュなビートがかっこ良過ぎて。
daipon:最近になって抜き方を覚えたんですよ。本当は音が厚くなるところで敢えて抜いたり。
2YOU:この曲にはPaleduskのKAITOさんとDAIDAIさんも参加していますが、効果絶大ですね。オールドスクールとニュースクールが同居したカオスを生み出しているなと。
daipon:あのふたり、凄いんですよ。マジでえげつないんです。
Naoki:俺に出来ない凄いリフをぶっこんで欲しいってオーダーしたら本当に俺じゃ出来ないのがきて(笑)。
daipon:くっちゃくちゃにして欲しいっていう俺達の要望を軽く超えてきたよね。ふたりに頼んで本当に良かったです。
2YOU:あとENTHはリフが特徴的だと思うのですが、「COCKY」のリフや「DUMBLORD」のリフの攻め方が最高に気持ち良くて。
daipon:簡単なリフなんですけどね。音も3つくらいで、それを回転させてるだけっていう。
Naoki:ノリを保っていく感じだよね。
daipon:「DUMBLORD」は俺達なりの新しいイージーコアの解釈なんですよ。訳分からないことをシャウトしたり、ビートの硬さだったり、リフのキャッチーさだったり、これはイージーコアだなって。
2YOU:「WHATEVER」もENTHの新境地だなと。個人的には今作で一番好きな曲なんですけど。
daipon:あ、一緒です。この曲はバンドマンからも評判が良いんですよ。ここまでゆるくて簡単で、ふざけられて、楽しみながらつまらんことをかわしていく感じがENTHっぽいなって。
2YOU:この曲も引き算が良く活きていますよね。
daipon:今までだったら大きなリフが入るポイントでガツッと抜いてますからね。
2YOU:そういう引き算を覚えるとアプローチに幅が生まれますよね。
daipon:俺達のはかなり荒い引き算ですけどね(笑)。
Naoki:100か0かだから(笑)
2YOU:たぶんそこに音楽理論を持ち込んだりするとまた違うものになると思うんですけど。
Naoki:理論とかないですからね。昔のdaiponは理論派だったけど。
daipon:うん。でも今は完全に無視してる。
2YOU:そして「NETH」ですよ。この曲はもうENTHそのものだなと。
daipon:ENTHがどういうバンドかを分かり易く表せてる曲になったと思いますね。メロコアバンドとは違うし、だけどメロコアだし、ハードに寄ってるけどそこまで深くないしっていう。そのすっぽり感が凄くENTHっぽい。歌詞も強烈だけど自分に向けての警告でもあって、アルバムを締めくくるのに相応しい曲になったと思います。
2YOU:しかし凄いアルバムを作りましたね。やりたいことを、やりたいように、やりたいときにやれるのって中々難しいじゃないですか。
daipon:普通このタイミングでこんなアルバム作らないですよね。でも本当に良い作品が出来たと思っています。
Naoki:めちゃめちゃ気に入っています。
daipon:ライブでポカーンってなるかもしれないけど、そもそも分かられてたまるかって気持ちもあるし。
2YOU:分からないから分かりたくて惹かれるのかも。
daipon:その要素をENTHは持ってるかも。何かよく分からないけどENTHってかっこいいって思ってもらえているなら、その何かは分からなくていいっていう。まあ、掘っても何も出てこないんですけど(笑)。
2YOU:何もないのに何かある風に見せるのも上手だし(笑)。
Naoki:あははは。ある風(笑)。
daipon:俺ら、超浅瀬でチャプチャプしてるんですよ。好きだったら詳しくないと駄目って風潮あるじゃないですか。そういうの俺ら、全くなくて。だってプカプカしたとこで気持ち良く遊ばせて欲しいもん。
Naoki:超にわかだよね。
daipon:きっとそのカルチャーの真ん中にいる人からしたら俺らみたいにノリとエネルギーだけでやってる奴らって良く映ってないかもしれないけど、それが楽しいんだから放っておいてよっていう(笑)。
2YOU:それはENTHのみんなが掘ってるタトゥーにも表れていますよね。思想や文化はあって然るべきですが、ENTHのみんなが掘ってるタトゥーにはその固定概念を超えているものがあって。
daipon:メッセージ性なんてひとつもないですからね。
Naoki:意味があるのを刺れても考え方なんて変わる可能性もあるからね。だから意味のないものを刺れてるだけっていう。
daipon:一生背負う座右の銘なんてないからね。
2YOU:それがENTHの活動にも繋がってると思うんですよね。フランクさというか、フラット感というか。身体の大きな見掛けは強そうな相手を簡単に倒す天下一武道会予選におけるクリリンみたいな。
Naoki:あははは。無駄にでかい奴をパンチ一発で簡単に倒すみたいな(笑)。
daipon:ページを開いたら会場ごとドーン!みたいな(笑)でもそういう軽やかさは持っていたいっすね。構えていないのに無敵だったらめっちゃかっこいいですからね。
interview by 柴山順次
ENTH
タイトル:NETH
【SPECIAL BOX盤】RCGB-1001
3,000円 (+税)
【通常盤】RCGB-1002
2,300円 (+税)
2020年11月25日発売