明日、照らす

明日、照らすが7年振りの新作『Permanent Collection』をリリースした。『素晴らしい日々』『それから』『あなた』と彼らのアイデンティティを確立した3枚のアルバムは「明日、照らす3部作」と称され、バンドマン、リスナー問わず多くのフォロワーを生むこととなった。そして『あなた』から7年。時代も変われば、メンバーの生活も変わり、比例するようにバンドにも変化が訪れていた。意識的に変えようとした部分、そのまま突き詰めた部分、ここに辿り着くまで、試して、作って、壊して、また試してきた7年という歳月の、その全てを詰め込んだアルバム『Permanent Collection』を完成させた村上友哉、伴佳典に話を訊く。

 

2YOU:7年振りのアルバム、本当に待ってました。

村上:もうアルバムなんて作れないんじゃないかって思っていました(笑)。

 

2YOU:それは『あなた』で明日、照らすとしてひとつの到達点に達したからですか?

村上:到達点かどうかは分からないですけど、自分がやりたいと思ったものは『あなた』までの3枚で全部出来た気がしていて。ずっとスリーピースに拘って、スリーピースで完結する音楽を作ってきたけど、それも『あなた』で終わりかなくらいに思っていたんですよ。だから次に作るなら打ち込みとかフルオーケストラを起用するくらいの変化が欲しいなって。アレンジャーを入れてみるのもいいかなとか。でも伴に「このままじゃ一生出せない」って言われて。

伴:村上から「アレンジャーを入れてみたい」って言われても、正直それで良くなる気が全くしなくて。勿論、フルオーケストラとか打ち込みとかも。それより僕は『素晴らしい日々』『それから』『あなた』と同じ方向を見ながら少しずつ拡大してきた明日、照らすの世界観をもうひとつ更に拡大したものを作るんだと思っていて。でも上がってくる村上の曲が色んな方向を向いていたからそこをまとめるのに時間がかかったのかな。

 

2YOU:確かに明らかに毛色は違いますよね。恋愛の曲もあるけど、これまで題材にしなかったようなテーマや曲調の曲もあって。

村上:とにかく新しいことがしたかったんですよ。今までの明日、照らすを全部捨てるくらいの気持ちでアルバムを作ろうとしていたんです。だから素直に出てきたものを形にするんじゃなくて、結構狙って作ったりしていて。それが『あなた』を出してから3、4年続くっていう。だから結構ズレていってたんだろうなって今振り返ると思いますね。それを伴が引き戻そうとしてくれていたんだなって。そのお蔭で変化じゃなくて幅になったと思うので。じゃなきゃ滅茶苦茶な内容になってたと思います(笑)。

 

2YOU:それこそノイズとか。

村上:そうそう。まさにノイズとかポストハードコアとか、そっちにいこうと思っていた時期もあったので。バリエーションを求めていたんでしょうね。この7年でさよならパリスをやったことも大きくて、あれで自分の音楽の幅を出せたから、その幅を明日、照らすでも出したくなったんだと思います。今思うと凄く危険でしたね。

 

2YOU:意識的に変化を求めていた?

村上:同じことをまたやっても意味がないと思っていました。恋愛の曲は好きだし聴くけど、きっと何曲作ってもほぼ同じになるなって。勿論、周りからすると得意分野みたいなところなんでしょうけど、それをまたやることに意味を感じなくて。

 

2YOU:「あの娘を返せ」や「僕のコートニー・ラブについて」のような必殺技を使わないことで新し明日、照らすを作ろうとしていたと。

村上:その通りです。でもそこを伴が引き戻そうとしていて。

伴:引き戻すっていうか、そういう曲がくるのを待ってたんですよ。だって言っても絶対に聞く耳持たないし、何を言っても戻ってこないと思っていたので。

村上:うるせえよ(笑)。だから正直、もっとっ振り切ってもよかったのかなって今でも思ったりするんですよね。まあそれをしていたらどう考えても良いリアクションはなかったんだろうけど。それをしなくて済んだのは、結局さよならパリスっていう落としどころがあるのも大きいのかもしれないですね。

 

2YOU:欲求を叩き込める場所が出来たと。

村上:所謂パワーコードのポップパンクってすでに『あなた』の頃には明日、照らすではやっていないんですよ。それはさよならパリスでやるようになったからで。やっぱり明日、照らすってちょっと違うんですよ、自分の中でも。結局僕は何をやっていても「明日、照らすの人」だし、その自覚もある。だから曲をひとつ作るにも慎重になるし、どっちが良い悪いじゃなくて、明日、照らすに持っていけないものを消化する場所としてさよならパリスがあることは凄く健全だなって思っていて。自分の中では小説になるものが明日、照らす、エッセイやコラムになるものは他に持っていくっていう考え方なんですけど。

 

2YOU:明日、照らすの曲になるものはある意味、村上さんの中で答えが出ていることのような気がします。逆に答えの出ていない感情を殴り書くのはさよならパリスであったりさよなら三角であったりするのかなって。

村上:ああ、それはあるかも。

 

2YOU:「自負と偏見」とか物凄く生々しい曲ですけど、これが形になっているってことは村上さんの中で答えが出てるというか、出てしまったからなのかなとか。

村上:そうですね。あの曲が書けたのも年齢や時間が大きいかも。ちゃんと7年経ってるんだなって自分でも思います。

 

2YOU:抗えない現実を目の前にしてどう思うか。そこがちゃんと形になっているのがこれまでとは違うのかなと。前だったら「あの娘を返せ」って言うところを、もう諦めざるを得ない現実を突きつけられたような。

村上:そうなんですよ。結局僕は自分の経験を落とし込むことしかやってないから色々と生々しくなるんだけど、年齢と共にそのパターンが増えていくっていう(笑)。あと、世のラブソングって別れた彼女とヨリを戻して、その先でうまくいかない曲ってなくないですか?僕が知らないだけかもしれないですけど。

 

2YOU:ヨリを戻すところがゴールですからね。でも明日、照らすの歌詞はヨリを戻したら自分の知らない部分が増えていて、そこを滅茶苦茶気にしちゃう男の歌ですからね。

村上:あははは。気にしちゃうなあ。

 

2YOU:そんな服着てなかったじゃん、とか。

村上:そんな絵文字使わなかったじゃんっていうね(笑)。そういう角度は歌詞を書く上で大事にしていますね。「あの子が好きだ!」「好きだから会いたい!」みたいなのは正直もういいやんって。明日、照らすで何回言うの?って自分ではどこか思っていて。

 

2YOU:「「さよなら」を絵に描いたようだ」なんてその次元では歌えないですからね。好きとか嫌いとか、ヨリを戻すとかどうとかじゃないですから。次元が。

村上:そうそうそうそう!もうね、好きとか嫌いじゃないですから。30代半ばの人間が感じることなんでしょうね(笑)。

 

2YOU:大人っぽさで言えば「MALL LIKE(Y)」とか「クラブ、スペード、ダイヤモンド」のようなシチュエーションは新鮮でした。恋愛の綺麗な面だけじゃなく、恋愛なのかも分からない男女の部分を当事者目線で歌う視点はあまりなかった気がするので。

村上:そういう設定には結構拘りましたね。男女がいて、でもその背景は今までと違って、ラブソングって好きとか嫌いだけじゃなくて、普通は曲にしないような感情やシチュエーションを題材に曲を作ってみたくなったんですよね。

 

2YOU:そこも変化を求めた結果ですか?

村上:聴いてくれた人に変化を感じてもらうのって、世界観を変えるのが一番手っ取り早いと思うんですよ。世界観とリズムパターンかな。だから歌詞の世界に対しても、自分が素直に曲にしたいと思ったことプラス、他の人が切り取らないであろう題材を意識して書くようにしたんです。

 

2YOU:歌詞の世界観が変われば楽曲の空気感もリンクして変化するのは当然ですよね。だから今作に漂うムードみたいなものは圧倒的に違うと思うんです。

伴:今作を一緒に作ってくれたサポートドラムのフッキー(i GO)と極力シンプルな感じを意識してリズムを作ったんですけど、それが村上の歌詞とリンクしたんだと思っています。明るいより暗いというか、決して「楽しい!」ではないアンニュイさは出せたかなと。

 

2YOU:「花も嵐も」の切なさとか凄いですよね。この曲は「東京サーモグラフィー」の続編というか、少し背伸びした恋の終わりを歌っていて、同じ境遇の人には思いっきり刺さるんじゃないかなと。

村上:これ以上ないなってくらい、究極の失恋ソングを作りたかったんですよ。それを極力シンプルなアレンジで伝えたかった。そこを伴もフッキーも本当によく汲み取ってくれて。この曲が完成して思ったのは、僕は幅を広げることや変化することしか考えてなかったけど、今あるもののレベルを上げることも大事だってことを僕だけ理解出来てなかったんだなって。僕だけが分かり易い変化を求めていたし、それが成長だと思っていたけど、そうじゃない形でちゃんと辿り着ける方法を教えてくれた伴とフッキーには感謝していますね。

 

2YOU:そして今作のハイライトでもある「K」と「泣くな、新栄」ですよ。この2曲はちょっと涙なしでは聴けませんでした。会えなくなった友達、解散したバンド、色んな人の顔や活動初期の明日、照らすの顔がどうしても浮かんでしまって。

村上:単純に歌にしないと吐き出しようがない感情というか。「泣くな、新栄」を書いたきっかけは友達の死が大きいんですけど、何の評価もされないまま頑張ってきて、最後の最後まで報われないのって悲し過ぎるじゃないですか。はっきり言ってッフリーターのバンドマンなんて社会の底辺ですよ。それは自分も経験したから分かる。「いつサマソニ出るの?紅白は?Mステは?」っていう死ぬほどだるいことを言われて「そうっすね」なんて愛想笑いしながら今に見てろって思いながらやってきた人たちが確かにあの頃新栄に沢山いて、あの人達のことを今も続けている僕が歌にしないと、僕が今も続けている意味なんてないんじゃないか。それを歌にしないんだったら、何にしがみついてやってきたんだ。そんなことを思いながら書いた歌詞なので。僕らなんかより全然才能のある人達が辞めていって、僕らだけ偶然残って、そういう人達をフックアップ出来るとは思ってないけど、そういう人達を肯定してあげる曲を僕が歌わなかったら本当に意味なんてないから。だから新栄にいたみんなに聴いて欲しいんですよ。viridianに、里帰りに、THEモールスシンゴーズに聴いて欲しいんですよ。伴はどうなの?

伴:うーん、僕はあんまり意識してない。

村上:えー!!

 

2YOU:あははは。このバランスが明日、照らすですね(笑)。

村上:信じられない(笑)。

2YOU:今作のラストを飾る「未成年への主張」がボーナストラックとなっているのは何か意図があるのですか?明日、照らす史上、最もメッセージ性のある曲だと思うのですが。

村上:メッセージ性が強すぎてアルバムに入れる場所がなかったんです。

 

2YOU:なるほど。この曲のテーマは虐めですよね。

村上:はい。僕がバンドをやってきた中で書きたいテーマがあって、それが自殺と幼児虐待と虐めなんですけど、『あなた』の「泡の日々」で自殺をテーマにして、「モンロースマイル」で幼児虐待をテーマにしたので、今回「未成年への主張」で虐めをテーマにしたんですけど、テーマが重すぎて。僕が中2の頃、西尾市で虐めで亡くなった事件があって。かなりの社会問題になったんですけど、今回虐めをテーマに曲を書くにあたって現地まで行って図書館で手記や遺書を読んだんですよ。それが自分にとっても滅茶苦茶重いことで。だけど、それをそのまま歌うんじゃなくて、聴き易く、分かり易く、敢えて明るい曲調で歌うことでドキュメントではなくエンターテインメントまで持っていこうとしたんです。そういうものを僕は作りたいので。だけど、そうすると今度はアルバムに入れる場所がなくて。それでボーナストラックにしたんですけど。

 

2YOU:当初Xの『Jealousy』というアルバムに収録予定だった「ART OF LIFE」がアルバムに入らなかったことをYOSHIKIは「ART OF LIFEが他の曲との共存を拒んだ」という名言を残しているのですが。

村上:あははは。これから「なぜボーナストラックなのか」って聞かれたら「未成年への主張がアルバムとの共存を拒んだ」って答えます(笑)。

 

2YOU:しかし本当に色んな側面からちゃんと7年経っていることを感じるアルバムでした。次はもうちょっと早く聴けると嬉しいですけどね(笑)。

村上:いやあ、どうなんでしょうね。フルオーケストラ、作ろうかなあ(笑)。

 

明日、照らす
タイトル:Permanent Collection
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interview by 柴山順次