ライブハウスネバーダイ

新型コロナウイルスの影響により危機的状況にあるライブハウスに対し、「音を鳴らす場所を絶やしてはならぬ」「ライブハウスに恩返しするんだぜ」と立ち上がった「ライブハウスネバーダイ」というプロジェクト。発起人はTOYOTA ROCK FESTIVALや橋の下世界音楽祭などを運営するイベント企画ユニット「似てない屋」の樋口ヒデヨシ氏と看板製作やライブペイントなどを手掛けるアーティスト「スドウ図画工作」のスドウPユウジ氏。ライブハウスに恩返しをするというこのプロジェクトを立ち上げた経緯を発起人である樋口氏に訊く。ライブハウスに救われ、ライブハウスに育てられた者によるライブハウスへの恩返し。ライブハウスネバーダイプロジェクトは始まったばかりだ。

 

2YOU:まずは樋口さんのライブハウスの原体験を聞かせて下さい。

樋口:自分のルーツはパンクなんですけど、やっぱりパンクバンドはライブハウスっていうことで、小学校6年くらいの頃からライブハウスに行くようになったんですよ。恐々。で、登竜門というか、みんな通る道というか、ライブハウスの入り口で見事に金をたかられるっていう(笑)。

 

2YOU:それが小学生の頃ですか?かなり早いですね。

樋口:いとこのお兄ちゃんの影響ですね。小学3年生くらいからセックス・ピストルズやザ・クラッシュを聴き出して。それでライブハウスに行くようになったんですけど、そこで怖い思いも沢山したけどけど、それ以上のエネルギーを感じて。それが面白くてライブハウスに通うようになりました。中学、高校の頃にはバンドもやっていたんですけど、早々に見切りを付けてイベントをやるようになりました。

 

2YOU:何かきっかけはあったのですか?

樋口:バンドを諦めた頃にフジロックに遊びに行って、音楽との関わり方というか、表現の手段としてイベントというやり方があることを知ったんです。「あ、これかも!」って。僕は自営業がクラシックカー屋なので、クラシックカーを集めたイベントをやったらそれが滅茶苦茶うけて。そのイベントを豊田スタジアムでやっていたんですけど、何年かやっていたら豊田のあるお寺の方から「うちの境内で何かやらないか」と声が掛かって。それで音楽とフリーマーケットを合わせたイベントをやらせてもらったんです。そこで今のTOYOTA ROCK FESTIVALとか、橋の下世界音楽祭のみんなと出会ったんです。その年の秋に「豊田でロックフェスティバルをやりたい」っていう話が来て、トヨロックが始まるっていう。だからきっかけはフジロックですね。

 

2YOU:現在樋口さんが関わっているイベントは?

樋口:主なイベントはTOYOTA ROCK FESTIVALと橋の下世界音楽祭ですね。TOYOTA ROCK FESTIVALは13年前から入場無料でやっているイベントで、母体は第三セクターの町作りなんですけど、運営やブッキングは地元の音楽好きのあんちゃんたちが主体となってやっている手作りのイベントなんですよ。そのトヨロックにも初年度から出演してもらってる豊田のTURTLE ISLANDの人達が、もっと深く自分達の表現をするべく始めたのが橋の下世界音楽祭っていう。3.11以降、やっぱり自分達で、自分達の住んでる場所を面白くしたいっていう気持ちはみんな強くて。

 

2YOU:橋の下世界音楽祭が3.11以降始まったように、何かが起きたときに何かが生まれると思っているのですが、今回樋口さんがライブハウスネバーダイプロジェクトを立ち上げたのも今起きていることに対するアンサーというかアクションというか。

樋口:世の中を変えるとか、大きなことは絶対出来ないと思ってるし、やっぱり大きなものに牛耳られてる世の中っていうのは大人になればなるほど分かるんですけど、であれば、せめて自分の身近なものとか好きなものに対しては力を注ぎたいなと。今回やっぱり一番大きかったのは、ライブハウスが悪者にされて、自分達が大好きなライブハウスが悪く言われてることに対して「ちょっと待てよ」というメッセージは出したかったんですよ。

 

2YOU:新型コロナウイルスの影響はライブハウスの問題だけではなく、どの業種も打撃を受けていると思っていて。

樋口:貧乏人も金持ちも、分け隔てなく、全てですよね。

 

2YOU:はい。だけど、やはり最初にライブハウスがやり玉に挙げられてしまったことは事実であって。

樋口:そう。やっぱり人間って弱いから何処かに捌け口というか、悪者を作って「自分はそうじゃない」っていう立場を取りたくなるんですよね。人間の心理というか、日本人の伝統というか。100人が100人、こうだって言ったら、本当は違うと思ってる人もそっち側に立たなきゃいけないみたいな。だけど、そんな中にも絶対に1人2人は「いや違うよ」って人もいるから。その「違う」って意見もちゃんと発信していかなきゃいけないなと。

2YOU:樋口さんにとってライブハウスとはどのような存在ですか?

樋口:異次元の体験をさせてもらえる場所ですね。日常、非日常で言ったら僕にとっては非日常な部分があって、そこには自分の大好きなヒーローがいるんですね。そこで力を、エネルギーをもらえる場所がライブハウスだと思っています。最初にも話しましたけど、怖い経験も沢山してるんですよ。普通だったらもう二度と行くかってなると思うんです。でもそれ以上に救われている部分がある。やっぱりライブハウスって、ちょっとはみ出し者だったり、クラスで浮いてるような奴が行く場所だとも思っていて。そこが自分は大好きだし、そういう人間が集まってるから、逆に言えば気が合う人がいる場所でもあって。そういうマイノリティーが集まる場所が好きなんでしょうね。

 

2YOU:クラスにはいないような、自分と同じ趣味の、名前も知らない友達がライブハウスでは出来たりしますからね。僕もライブハウスで20年以上顔を合わせて話すけど本名を知らない友達が沢山いますから。

樋口:いますよね(笑)。結局そこで会う人って、日常生活では接点がない人達で、何処に住んでるか、普段何をしてるか分からないけど、滅茶苦茶気が合う人に出会えるのが本当に面白いし。

 

2YOU:でも今回のことがあって、よりライブハウスがマイノリティであることは痛感しました。

樋口:そこはもう、間違いないんだなっていう。少しは理解が深まったのかなって思ってた自分が甘かった。

 

2YOU:だからって被害者振る訳じゃなくて、ライブハウスだけが被害を受けてるとは僕は全く思っていないんですけど、それでもやっぱりライブハウスの見られ方はあまりにも酷いなと。

樋口:酷いですよね。でもやっぱりライブハウスのイメージって絶対良くはないじゃないですか。危険な場所だって言われたら否定のしようがない訳で。だからライブハウスに興味がない人を説得するのは無理だと思っています。ただ、ライブハウスを好きな人は絶対いるので、ライブハウスにお世話になった僕らがやれることって何だろうって考えたときに「ちょっとでも恩返ししようや」って声を挙げたのが今回のプロジェクトだったんです。幸い自分はイベントを主催していたり、ラジオDJをしていたりっていう立場があるから拡散は出来る。その上で物理的にやれることといったらやっぱりお金なんですけど、自分達だけで寄付をするのは限度がある。それでステッカーを作ってお金を集めて寄付するっていう、チンケだけど一番分かり易くて、伝えやすい方法を考えたんです。必要経費は何とかするからステッカーをライブハウスで売って、少しでも足しにしてくれっていう。本当はトップアーティストが動いてくれたら早いんですけど、そうもいかないみたいなので。「おまえたちは休んでおけ、俺達が保証してやるから」っていうのをトップアーティストが言ってくれたら「やっぱり俺達にヒーローはいる」ってなるんですけど。まあ漫画みたいな話なんですけど。

 

2YOU:だからこそライブハウスネバーダイプロジェクトもですし、各地で立ち上がっている支援プロジェクトもですけど、現場の人間が声を発するしかないと。

樋口:その声が少しでも届くといいですけどね。今は誰でも発信出来るじゃないですか。だから自分も発信源になり得るってことをライブハウスが好きなみんなが気付いたら時代が変わる気がしているんですよね。それがライブハウスネバーダイプロジェクトで言いたいことでもあります。

 

2YOU:全員が当事者であることはもう充分気付いていると思うので、そこで何をするかですよね。

樋口:上から言われたことだけを聞くっていう時代ではないと思っているので、それぞれがやれることを考えて行動することで何かが変わると思っています。今度こそ。

 

2YOU:1人の意識が変わることで、それが連鎖していけば大きな渦が出来ると思っていて。ライブハウスネバーダイのステッカーが広がっていくように。

樋口:ライブも1人のお客さんがもう1人誘うだけでお金になるんですよ。ステッカーを貼って誰かがそれを見て買ってくれたらお金になるんですよ。そうやってどんどん広がっていくことがライブハウスの存続に繋がると思います。あとは絶対的な音楽のパワー。これを僕は信じているので。だからこそ一般層を突き動かす何かがあればいいんですけど。

 

2YOU:随分昔の話ですがMステをドタキャンしたtATuの代わりにTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが急遽生演奏したような。

樋口:そうそう。ああいうインパクトが放つ音楽のエネルギーを信じて止まないんですよ。うん、インパクトなんですよね。だから今回Pちゃん(スドウPユウジ)がライブハウスネバーダイのロゴをSNSに挙げたときにインパクトがあったから「これをステッカーにしたら売れるよ」って電話したんです。そしたらPちゃんが「いや、これはライブハウスに何かしら還元出来たら嬉しいと思ってる」なんてかっこいいことを言うんです。それで「これ売れるよ」なんて言ってたことを0.5秒くらい反省して「わかった。一緒にやろう」って始めたんですけど(笑)。それからプロジェクトの発表まで24時間も経ってないですからね。最初は全部自腹でやるつもりだったけど「お前達ばっかりかっこつけてんじゃねえよ」って仲間から連絡が沢山来て。それでどんどんステッカーを増刷したんだけどやればやるほど赤字なことに気付くっていう(笑)。でもそうやって気持ちを形にして伝えることしか武器はないので、こうやってインタビューしてもらって広げてもらうことは本当に嬉しいです。「マイノリティーの人達が生きる場所を残してくれ」というのも何か違う気がするし、ライブハウスに興味がない人は何を言っても興味がないじゃないですか。だから強制はしたくないんですけど、届く人には届いて欲しくて。

 

2YOU:不要不急という言葉が問題にもなったじゃないですか。でもはっきり言ってライブハウスは不要不急なんですよ。

樋口:はい。不要不急ですね。

 

2YOU:なんですけど、その不要不急な場所が生活の全てな人もいる訳で。だからそこで生きている僕らが生活の場所を自分達で守るしかないのかなって。

樋口:そうそう。自分達の場所は自分達で守る。自分達で何処までやれるかやってみる。誰が守ってくれて誰が守ってくれないかもはっかり分かったし。あと、音楽やアートを必要としてる人ってそんなにいないんだなっていうことも明確になったなと。そういうものを拠り所にしてる人って1割くらいなんだなって。だから今後アーティスト活動をやるにおいて一般受けとかそういうのを考える必要なんてないのかもしれない。だってそもそも1割しかいないんだもん。だから僕らが動いたって世の中が変わらないのは重々承知なんです。だけど黙ってはいられない。当事者として声を出していくことが本当に必要だと思っているんです。そこに勇気が必要かって言ったら、僕らはボケてるから勇気なんて全然いらないんですよ(笑)。でも一般の人はマイノリティに加戦するのは勇気がいりますよね。だからこそ忌野清志郎のようなリーダーがいてくれたらなって、それは滅茶苦茶思いますね。

 

2YOU:でもそのヒーローがいないからこそ自分達が立ち上がる必要があって。

樋口:はい。ヒーロー不在を感じてしまったことがやっぱり僕は悲しかったんだけど、自分達も40を超えて、人に頼ってばかりでもいけないなって思うこともあったり。だから各地でみんなが立ち上がって、コロナ終息以降の祭りをイメージして、そこに辿り着くまで生き延びる方法をみんなで出し合って生きていきたいですね。

ライブハウスネバーダイプロジェクト
https://livehouseneverdieproject.jimdofree.com/

似てない屋
https://www.facebook.com/nitenaiya

スドウ図画工作
https://sudo-p-yuji.jimdo.com/

ネバダイ屋
https://sudopyuji.thebase.in/

interview by 柴山順次 edit assistant by makito