tricot

interview by 柴山順次
tricotの『真っ黒』凄すぎ。いきなり語彙力のない書き方をしてしまうほど『真っ黒』というアルバムが持つ魅力にやられている。10年間、自分達の音楽を追求し続けてきたtricotが令和元年、まさかのメジャーデビューを果たしたのは記憶に新しい。タッグを組んだのはavex。これはもう完全に混ぜるな危険である。tricotの発想力とavexの発信力。これはもしかしたら日本の音楽の価値観を引っ繰り返してしまうんじゃないか。いや、本当に。そんなtricotがメジャー1stアルバムとして完成したのが今作『真っ黒』だ。いや、真っ黒て。しかし聴けば聴くほど凄いアルバムだ。ドラム吉田の加入により広がった表現力と、今までとは異なる音楽の組み立て方が見事に落とし込まれた現体制でしか成し得ないアルバムの誕生に音楽の可能性を感じずにいられない。tricot、本当に凄い。興奮を隠し切れないまま、中嶋イッキュウ、キダ モティフォを訪ねた。

 

Q.10年目のメジャーデビュー、驚きました。

イッキュウ:ずっと自主でやってきたんですけど、自分達の中でも「メジャーでやったほうがいいんじゃないか」という話は前のドラムがいた頃からあって。でもその頃はまだ自分たちだけでやるのがかっこいいと信じていたし、もう少しやれることがあると思っていて。それからドラムの脱退もありサポート期間に入ったことでバンドが不安定になってしまって、メジャーのことは考えられなくなっていたんです。そんな中で吉田さんがバンドに加わって『3』というアルバムを一緒に作ったり、47都道府県を回ったり、海外にも行ったり、色んなことを一緒に経験したことで、今のtricotなら誰に聴いてもらっても自信を持って届けられる体制が整ったことがメジャーでやってみようと思うきっかけになったと思います。

Q.吉田さんの加入は音楽的な面だけでなく、バンドの精神面やフィジカルな部分でも大きな影響があったと。『リピート』以降のtricotは吉田さんのカラーも色濃く楽曲から感じます。

イッキュウ:吉田さんの脳みそが入ったことで、tricotらしさを残したままtricotの音が変化していて。例えば同じ曲をやったとしても、以前より味わい深いふくよかなものになると思うし。暴れたり尖っていることのかっこよさの一歩その奥に視点を定めることが出来たのは吉田さんのドラムが加わったからこそだと思いますね。

Q.吉田さんのドラムって「ここは歌が前に」とか「ここはドラムが引く」みたいなバランス感覚が凄まじいですよね。
イッキュウ:今までのtricotはメンバーそれぞれが好きなことをやっていて、それが同時に再生されて曲中でせめぎ合っていたんですけど、吉田さんは「ここはギターを聴かせたい」とか「ここはベースを立てたい」といった住み分けを大事にする人なので自ずと音のバランスが変わってきたなと。

Q.全員が全員、思いっきり技をぶつけ合うtricotも勿論かっこいいんですけど、そこだけじゃないバンドの魅力が今作では伝わってきました。「危なくなく無い街へ」の存在感とか物凄いですからね。「tricotといったら変拍子」みたいなパブリックイメージもあると思うんですけど、この曲はそこも徹底的に排除していて。これまでtricotの色んな面を見てきたしめちゃくちゃ聴いてきたつもりですけど、まだ知らない顔があるんだなって。

イッキュウ:今までだったら、あそこまでシンプルな曲だとアレンジの終わりが見えないというか、どこで完成にしたらいいか分からなくて何かしでかしたくなっちゃうと思うんですよ。でも「危なくなく無い街へ」はいつもより空白を残したまま良いものを作ることに挑戦したんです。

Q.音楽を聴いて、「映画を観たような」って比喩表現をすることがあると思うんですけど、「危なくなく無い街へ」はまさに映画だったんですよね。岩井俊二監督の映画のような空気感だなと。イノセント感と、その真逆の感じの両方を持ち合わせていて、楽曲を聴きながら頭の中でエンドロールが流れてくるみたいな。

イッキュウ:Aメロのメロディはそういう面も意識しました。ちょっと古めかしいというか、音的にはエレキでやっているんですけど、歌は弾き語っている女の子のようなイメージで作りました。

Q.映画をVHSで観ているようなレトロ感を感じるんですよね。それを演出しているのがこの曲ではドラムの音色だと思うんです。音の鳴り方が今っぽいそれとは違うのが逆に新しかったり。

キダ:ドラムの音色に関しては吉田さんが敢えて今っぽい音で録らないことを意識していると思います。昔のロック、例をあげるならレッドツェッペリンとか。

Q.「右脳左脳」のドラムのファンク感もめちゃくちゃかっこいいです。

イッキュウ:吉田さん的にはtricotはダンスミュージックだって言っていて、所謂ジャンルとしてのダンスミュージックじゃなくて、踊れることが前提にある音楽がtricotだって言っていました。

Q.曲の作り方とかで従来と変わった部分はありますか?

イッキュウ:若干ありますね。「あふれる」はサビのメロディから作って、コードは後から付けてもらいました。今までだったらまずはインストを作って後から歌を入れるスタイルが多かったんですけど、今回はワンコーラスだけ作ってそこに歌を乗せて、そこから続きを広げていくようなこともしたので以前と違って途中の段階で歌がどう乗っているか分かっているので曲の方向性が見えやすくなったと思います。

キダ:前は次の展開が見えない中で絞り出すようにフレーズを考えていたけど、吉田さんがとにかく引き出しの多い人なので色んな案を出してくれて。そこも変化だなって思います。

Q.「混ぜるな危険」がアルバムの1曲目に配置されていることも印象的なんですが、そもそもtricotとavex自体が混ぜるな危険だと思うんです。これまで交わらなかったところが手を組むことによって、こんな広がり方するんだって。これは日本の音楽シーンに革命が起きちゃうんじゃないかって本気で思いましたから。

イッキュウ:数年前に四つ打ちの音楽が流行ったじゃないですか。あの時「あれは四つ打ちなんかじゃない!」って言ってる音楽に凝っている人達もいたんですけど、私は音楽の間口を入りやすく広げてくれたんじゃないかと思っていて。そこからtricotにも辿り着いてくれたらいいなって私は思っていたんですけど、最近はKing GnuやSuchmosが売れていたりと、音楽を聴く人の耳も肥えているので、自分たちもその入り口側になれるんじゃないかなって思っていますね。

Q.tricotの音楽がメジャーのフィールドで広がっていくことによってポストロックだったりマスロック的な音楽が自然に耳に入ってくる環境が生まれたんじゃないかって思っていて。

キダ:そうだったら嬉しいですね。

Q.とにかく衝撃が凄いんですよ、今作。アルバムを再生してイントロのど頭のベースでいきなりぶん殴られましたから。

イッキュウ:早かったですね(笑)。

 

Q.開始10秒でこのアルバムはとんでもない作品だと確信しましたから。そうだ、とんでもなさといえば今回のアルバムで1番やらかしているなと思ったのが「順風満帆」なんですけど。

イッキュウ:あれは完全にやらかし案件ですね(笑)。

Q.疾走感もあるし普通にやってたらリード曲になり得るくらいキャッチーな曲だと思うんです。でも普通にやらないっていう(笑)。

イッキュウ:普通にやらない(笑)。

キダ:Aメロからサビにいく流れとか、展開をこねくり回しているうちに訳が分からなくなった結果、こういう感じになりました(笑)。

 

Q.ちょっとこのアレンジ変態過ぎませんか?

キダ:そうなんですよ。1番手こずりましたから。でも手こずっただけ可愛い曲でもありますね。

イッキュウ:「リード曲じゃないけど実質リード曲」みたいなのって毎アルバムにあって。「順風満帆」はライブとかでも愛されるような、そんな立ち位置にいくんだろうなって、親心的に思っています。

Q.「みてて」のパンチも凄い。なんかもう聴きながら「はい、みてます!」って声に出ちゃう。

イッキュウ:あははは。走り抜けてますよね、一曲通して。

Q.言葉の在り方が面白いなと。メッセージ性とか物語というより楽器として言葉や声が成立しているなって。

イッキュウ:「みてて」は言葉の耳障りを強く意識してます。これはもう、自分の性癖みたいなものなんですけど、やっぱり聴こえ方が気持ち良くないと歌えないというか、歌っていて楽しくないんですよね。意味を伝えたいとか共感して欲しいっていうのは全くなくて、なんなら自分でも共感出来ないし「何言ってるんやろう」って思いながら歌うこともあるくらいなので。だから意味がどうとかじゃなくて、せっかく身近に音楽という芸術があるんだから、それを芸術的に楽しんで欲しいなって思っています。例えば美術館に行って「この絵ってどういうことなんだろう?」って考えるような、私たちの音楽を想像力を引き立てる道具にして欲しいんですよ。

Q.歌詞を書くときってどういう状況のときが多いんですか?

イッキュウ:犬の散歩をしてるときとか、思いついたときに歌詞は毎日書くようにしているんですけど、書き溜めたものの中から使うことは殆どないです。大体スタジオでセッションしている間に書き上っていますね。家に持ち帰って考えるってことはないですね。

Q.「低速道路」では短いインタールード的な楽曲の中に「神戸ナンバー」と「slow line」の歌詞が引用されているじゃないですか。それに気付いた瞬間に泣きそうになってしまって。

イッキュウ:あの曲はまさにインタールードを作ってみようと思って、最初はコーラスだけ入れていたんですけど、なんかちょっと耳に残る言葉があった方がいいんじゃないかと思って、せっかくなら過去の曲をメジャーに連れて行きたいなって。それで「slow line」を日本語にして「低速道路」にして、車繋がりで「神戸ナンバー」の歌詞も入れてみたんです。

Q.この曲のアルペジオが好きなんですけど、高速を走ってて見える幻想的な月みたいな、そんな印象を受けました。ちょっと初期LUNA SEA感もあったりして。

キダ:なるほど(笑)。あのフレーズ自体はめちゃめちゃ昔に作ってて、なんとなくのタイミングで、このメンバーでやってみたいなと思って出してみました。

Q.「真っ白」もインタールード的な役割を持っていると思うんですけど、その流れで「真っ黒」に繋がる手法は、曲が全部繋がっていた『リピート』の延長なのかなと。

イッキュウ:ライブって曲と曲の繋ぎを大事にするじゃないですか。あの感じをCDでもやりたくて作ったのが『リピート』だったんですけど、「真っ白」から「真っ黒」の流れはそれを引きずっているところはありますね。

Q.「真っ白」と「真っ黒」を繋げておいて、「真っ黒」に切り替わった瞬間いきなり3秒半のブレイクがあるじゃないですか。あの3秒半こそtricotだなって。しかもそこでまた展開が変わっていく流れとか、至高過ぎるなと。今回のアルバム、まだ50回くらいしか聴けてないからまだまだ発見があるはずなんですけど。

キダ:たぶん全世界で1番聴いてると思いますよ(笑)。

Q.でもまだまだ聴き切れてないんですよ。来年くらいにもう1回『真っ黒』のインタビューをさせてもらってもいいですか?

イッキュウ:あははは。でもこのアルバムはライブでまた更に表情が変わると思います。短い曲はライブ用に長めにアレンジしたりとかもするので、別物になると思うので、ツアーが終わった頃にまた是非(笑)。

Q.ライブで「危なくなく無い街へ」がどう表現されるかとか。やばい、今想像して鳥肌が立ちました。

イッキュウ:昨日ちょうどツアーのゲネに入ったんですけど、一音入魂の曲が多すぎて集中力が大事だなぁと。今まではお客さんとの関係性が「一緒に楽しもうぜ!」という感じだったのが、まずは自分たちでしっかり固めないとなって。考え方がストイックになった気はしますね。より完成度の高いものを届けたいので。

Q.tricotを初めて観たときは「ドンガラガッシャーン!」みたいな面白さにやられたんですけど『3』あたりから楽しみ方が増えた印象があって。それでもまだまだ何かを隠し持ってる気がしているのでこれからも楽しみにしています。ちなみに今作に『真っ黒』というタイトルをつけた意図は何だったのですか?

イッキュウ:「アルバムのリード曲はこの曲だな」って思えるくらいレコーディングしながら「真っ黒」の手応えがあって。それであの曲をリード曲にしようとなったときに『真っ黒』っていうタイトルが面白いからそのままアルバムの名前にして、ジャケットも真っ黒にしちゃおうって。響きもキャッチーだし、あとみんなにも突っ込まれやすいかなって(笑)。コメントなどで私が書いている「いろんなものが混ざって真っ黒になった」というのは実は後付けだったりするんですけど、作り始めたときは特にコンセプトとかはなく、作っていくにつれて隙間が埋まっていった感じですね。真っ黒に塗り潰されていって、出来た曲たちがガシッとハマッて出来たのが今回のアルバムなんです。

Q.真っ黒なアルバムに聴いた人が自分の色を加えることでその人だけのアルバムになるのも今作の面白さかもしれないですね。僕は、黒の上にまた黒を塗りたいですけど(笑)。

イッキュウ:あははは。極っ黒ですね(笑)。

 

tricot/真っ黒
2020年1月29日発売
【CD+Blu-ray】CTCR-14982/B ¥5,500-(税別)

【CD+DVD】CTCR-14983/B ¥4,000(税別)

【CD】CTCR-14984 ¥3,000(税別)

https://tricot-official.jp/