我儘ラキア


text by 柴山順次 photo by 真島洸

書きたいことが溢れてくる。書かなくてもいいことが止まらない。なんせ今のこの状況で、あのタイミングで、ワンマンライブを行う選択をした我儘ラキアの何を文字にするかって、本来ライブレポートを書くはずが、気付いたらラブレターになっていて、一度全て消した。2月26日の政府からの要請以降、ライブハウスを取り巻く環境は一変した。そのたった3日後、我儘ラキアはO-WESTに立っていた。自粛要請以降、止む無く公演を延期、中止を選択せざるを得なかったアーティスト、ライブハウスは後を絶たなかった。その中での公演開催は思わぬ方向から攻撃されることもある。開催の選択も、延期・中止の選択も、どちらも正解だ。誰かにとって不要で不急なものは、誰かにとっては生活の一部、いや、生活の全てだったりもする。渋谷駅に着き、いつもとは少し様子の違うスクランブル交差点を歩きながら我儘ラキアのことを考えた。世界中に響かせようとしているそのメロディーは、自由を奪われた黒い世界でどう鳴り響くのか。そんなことを脳裏に浮かべつつO-WESTの扉を開き目に映ったものは、疑いも推測も必要としない、ただただ圧倒的な光景だった。

SEである「Prayer」が神々しく会場に響き渡りメンバーが登場する。4人の姿に上がった歓声がまるで祈りのように聴こえる。線を引いたかのように変わってしまった音楽を取り巻く環境に、ありもしない幻のイメージに、きっとみんな弱っている。こんなときにライブハウス。違う、こんなときだからライブハウスだ。「Pryer」を浴びながら静かに佇む4人の姿は、何処か穏やかさを感じ、その上でとんでもなく力強く見えた。

ライブは1曲目の「There is surely tomorrow」からハイライトの連発だった。一斉に上がる拳、モッシュとリフトで揉みくちゃ状態のフロア。これがライブハウスだ。我儘ラキアがどういう気持ちでこのステージに挑んだか、オーディエンスがどういう気持ちでここに集まったか、そしてライブハウスに来られなかった人達が今どういう気持ちでいるか、その全ての気持ち全部に寄り添おうとする4人。星熊南巫が先陣を切りフロアをリードし、海羽凜と川﨑怜奈がそれぞれタイプの異なる表現で楽曲にダンスで色を加える。そして深く被っていたフードをとりMIRIがラップする。この4人なんだ。この4人が集まった奇跡も、この4人が集まった軌跡も全部このステージにある。そして今日は4人だけじゃない。圧倒的で絶対的なバンドの生演奏と観客の熱狂が奇跡的なバランスが2020年2月29日を作り上げている。2階席でメモを片手に観ていたはずがいつの間にかメモはポケットの中でくちゃくちゃだ。O-WESTでは観たことのないようなド派手なレーザー照明も高揚させる。

「アイドルでもバンドでもどうでもいい。馬鹿にしてきた奴らはFUCK。しっかり見とけ、いつか我儘ラキアが一番だと言わせてやる」というMIRIの宣言、ライブにおけるリフトやダイブやサーフなどの論争に対する言及など、ライブシーンで戦う彼女達が感じてきたこと、感じていることもステージから投げかけられる。彼女達が誰と戦っているのかって、それは自分達自身だろう。戸惑いと勇気は紙一重だ。影を断ち切り、明日の光になる。その戦いこそが我儘ラキアの戦闘だし、それは今日、このステージで歌うことを選択した我儘ラキアの勇気だ。「In the end」を聴きながら涙が止まらなかった。この4人なら、新しい世界を見せてくれる。そう確信した。

星熊南巫のソロによる「cry pot」や星熊&MIRIのFLASH KiLLによる「Light」といった我儘ラキアとはまた違う表現方法を手にしたことも今の我儘ラキアの強さだろう。ニュアンスが伝わるか難しいが、我儘ラキアからソロで歌う星熊南巫ではないし、我儘ラキアの星熊南巫とMIRIのユニットがFLASH KiLLなわけではない気がするのだ。星熊南巫もFLASH KiLLも全く別のアーティストとして我儘ラキアと共存しているのだ。ライブの箸休めではないし、ライブにおけるソロコーナーでもない。極端な話、我儘ラキアと星熊南巫とFLASH KiLLが対バンしたような、各1曲ではあったが、そんな風に感じた。同じようで全然違うこと。そこが無自覚なのか、意識的なのかは分からないが、どちらにしてもとんでもない武器であることは間違いない。

特筆すべきは初披露となった新曲「rain」だ。この日集まった全ての人の心に降り注ぐような優しさと力強さを併せ持った楽曲を4人それぞれがそれぞれの魅力を最大限に発揮して歌い上げる。ちょっと堪えきれない。今日、ここに来るまでそれぞれが色んな葛藤をしたと思う。何度も書いているように、ライブハウスを取り巻く環境が一変し、やり玉に挙げられ、ライブハウスというものがマイノリティであることが浮き彫りになった。家庭がある人、仕事がある人、気持ちだけではどうしようもないことだってある。政治的、医学的、そして心情的な側面で心に雨が降り続けている人はきっとすぐ隣にいる。そんな人の心が晴れる為に音楽がどんな効果があるかは分からない。そんなことは重々承知だ。そんな中で我儘ラキアが「rain」をこの日に初披露したことだってテレビの速報にはならないし、医学的に何がどうなんて思ってはいない。「コロナに勝つ」なんて根性論も持ち合わせてはいない。それでも目の前の人の気持ちを晴らすことが出来るのは音楽だって信じている。信じさせてくれる。それが自分にとってのこの日の我儘ラキアのライブだった。自分は自分で自分のためにチョイスしている。ノイズはいらない。ボイスをあげろ。握った拳に力が入る。

鍵盤と4人の歌声が楽曲の持つネイキッド感を浮き彫りにさせた「The Reason」「Days」のアコースティックヴァージョンもワンマンに色を添えた。「僕らが過ごしてきた日々は間違いじゃなかった」と今日のこの選択を肯定し合う大合唱がO-WESTに響き渡ると、嬉しそうな表情を浮かべ一旦ステージを去るメンバー。SE「Beginning of the story」で再びステージにメンバーとバンドが現れると、そこからは怒涛の後半戦に突入。我儘ラキアの存在証明ともいえる「ゼッタイカクメイ」でフロアと鼓動を確かめ合うと、「Precious time」ではオーディエンスとの関係性を再確認するように歌い上げる4人。孤独な夜はきっと誰にでもあって、だからこうやってライブハウスに集まるんだろう。何故か悪者にされてしまった大切な場所にまた光が射すことを切に願うし、そうさせるのは音楽を必要とする者の役目だと思っている。「Sing with you」で巨大なサークルが出来上がった光景を目の当たりにして、これがユニティだと思ったし、見たかコロナと何度も思った。「My life is only once」を歌いながら星熊は「意地でも歌いにきた」と言っていた。その言葉に手が真っ赤になるほど拍手した。開催することが正解とはされない風潮の中でのライブ決行は、本来不必要なはずの精神的な苦痛を伴うものだったはずだ。あの要請以降、どれだけのアーティストが涙を飲んだことか。どれだけのファンが楽しみを奪われたのだろうか。その中でステージに立つこと。その意地。その意地こそが打ち勝つ術なんだと思う。ウイルスにも世論にも自分自身にも。

本編最後、今回のワンマンのタイトルでもある「Don’t fear a new day」が披露された。この日のワンマンのために制作されたというこの曲はこれからの我儘ラキアを象徴するような力強い楽曲だった。この4人で何処まで行けるか。夢を追う中で羽ばたこうとする希望と葛藤が同時に歌われているこの曲をワンマンのラストに歌う意味。明日は怖くない。だけど明日が怖い。そう吐露された気持ちに、O-WESTに集まったオーディエンスは何を感じただろう。大丈夫だって自分に言い聞かせながら、大丈夫だってみんなに歌う。その強さ。何が正解とか、もう本当にどうでもいいけど、声を大にして言いたい。我儘ラキアは大正解だ。あのワンマンから時間が少し経ち、まだ何も解決していないし行き着く先は誰も知らないけど、O-WESTの光景を思い出すだけで、音楽は大丈夫だって自信を持って言えるんだから音楽の力って凄い。そう思わせてくれる我儘ラキアって凄い。ラキアを信じたファンも凄い。あの日、O-WESTで起きた全てが不要不急な僕達の共鳴だ。

我儘ラキア 『Don’t fear a new day』
2020年2月29日 TSUTAYA O-WEST

(SE)Prayer
01.There is surely tomorrow
02.why?
03.Reboot with…
04.Trash?
05.In the end
06.cry pot(星熊 南巫)
07.Light(FLASH KiLL)
08.We’ll keep raising the flag
09.rain
10.The Reason(アコースティック)
11.Days(アコースティック)
(SE)Beginning of the story
12.ゼッタイカクメイ
13.Precious time
14.Sing with you
15.I’ll never forget.
16.Leaving
17.reflection
18.My life is only once
19.Melody
20.Don’t fear a new day

『我儘ラキア Killboredom TOUR 2020』
6月17日(水) 大阪・心斎橋VARON  開場18:30/開演19:00
6月28日(日) 広島・SECOND KRUTCH  開場16:00/開演16:30
7月19日(日) 北海道・札幌SPiCE  開場16:00/開演16:30
7月24日(金祝) 福岡・DRUM Be-1  開場17:00/開演17:30
8月16日(日) 愛知・ell.FITS ALL  開場16:00/開演16:30
8月22日(土) 宮城・仙台MACANA  開場16:00/開演16:30
8月31日(月) 東京・渋谷CLUBQUATTRO  開場18:00/開演19:00
9月5日(土) 大阪・BIGCAT  開場16:00/開演17:00