「大きくなったら結婚しようね」そんな子供の頃の約束をずっと胸に抱きながら、出会う子出会う子に恋をして、その都度フラれて、その全てを曲にするバンド、The Shiawase。幸せを求めすぎるあまり、名前にもそれがそのまま出てしまった3人組が歌うのは冴えないモテない男の真っ直ぐ過ぎるラブソングたち。好きな子と結婚したい。まるで小学生のような気持ちがそのまま継続している仲井陸が綴るラブソングは、いつの間にか失くしてしまった胸の奥の気持ちをチュクチュクしてくれる。実らなかった恋は素晴らしい音楽を生む。恋をして、恋をして、恋をして。フラれて、フラれて、フラれて。そうやって生まれたThe Shiawaseの音楽を聴ける僕らの幸せたるや。幸せを求め続ける仲井陸、木村駿太、神谷幸宏の3人に話を訊く。
Q.The Shiawaseはどのように始まったのですか?
仲井陸:メンバーは全員同じ大学なんですけど、学校のみんなにとにかく凄いって思われたかったから高校のときにやってたバンドの音源を学校で配りまくったんですよ。その中のひとりが木村で「一緒にバンドやりたい」って。でも当時は木村はギタリストで。
木村駿太:大学の音楽の学校なんですけど、僕はギターで入学したんです。だから最初はベーシストを探すつもりだったんですけど、ギタリストとしてベースを探すより自分がギタリストになって陸とバンドをやったほうがスムーズかなと思って(笑)。それでベースに持ち替えました。
Q.ちなみに陸さんが高校雄時代の音源を学校で配ったのはいつ頃なんですか?
仲井陸:入学初日くらいです(笑)。
Q.ヤンキー漫画みたいな(笑)
仲井陸:あ、でも本当にいかにヤンキーぶるかみたいな感じ配ってたんですよ。それに引っ掛かったのがたったひとりだけだったっていう。(一同笑)
Q.その音源にはどんな曲が入っていたのですか?
仲井陸:The Shiawaseとは全然違う今どきな感じです(笑)。普通な感じ(笑)。高校の頃はみんなが好きなものをやるみたいな感じだったんですよ。RADWIMPSとかUVERworldとか。でも俺が好きな音楽は全然やってくれなくて(笑)。でもThe Shiawaseは俺がやりたいことを自由にやらせてくれるバンドなんです。
Q.皆さんの音楽的なバックボーンはどのようなものなんですか?
仲井陸:みんなバラバラなんですけど、僕はブラックミュージックが好きです。古いブルースとか。
木村駿太:僕はバンドに興味を持ったのはASIAN KUNG-FU GENERATIONが最初で、そこからOASISに辿り着くみたいな。あとはちょっと違うけど、The Beach Boysのようなサーフロックも好きです。
神谷幸宏:僕はBUMP OF CHICKENとかRADWIMPSとかSPYAIRのようなJ-ROCKが好きでバンドを始めようと思いました。
仲井陸:本当にみんな違い過ぎるんですよ。だから逆にいいのかも知れないですけど。
Q.神谷さんが加入したのは?
仲井陸:実は神谷は2代目のサポートドラムだったんですよ。その後、女の子がドラムで正式に入ったんですけど、1年くらいで抜けたので神谷に入ってもらって。学校でもいつも一緒にいるし、仲良いので(笑)。やっぱりバンドをする上で仲が良いのが一番だなって。
Q.The Shiawaseというバンド名も印象的ですが。
仲井陸:はっぴいえんどが好きなんですけど、英語なのに平仮名で書くじゃないですか。だからその逆で日本語なのに英語で書く名前にしたくてThe Shiawaseにしました。あとは当時彼女がいなかったので幸せになりたかったんだと思います。今も彼女はいないですけど(笑)。
Q.みなさん大学生ですよね?
仲井陸:そうですよ。
Q.良い意味で曲が全然若くないんですよ。曲だけ聴くと年齢不詳感が凄いなと。会うと滅茶苦茶大学生なんですけど。
仲井陸:あははは。見た目は学生ですよね(笑)。
Q.だって「ポテトサラダ」とか、大学生くらいの子供がいる親が書いた歌詞じゃないですか。僕は「ポテトサラダ」を聴きながら自分の子供を思って滅茶苦茶泣きましたから。
仲井陸:あの曲はお母さんに聴かせたら泣いてましたね。弟が福島で一人暮らししているんですけど、家を出るときにお母さんがめっちゃ悲しそうで。弟が家を出てから何ヶ月か、元気がなかったんですよ。
Q.子供からしたら早く親離れしたいんだろうけど、親からしたらずっと傍にいて欲しいですから。駄目だ、ちょっと感情移入し過ぎてます(笑)。
仲井陸:あははは。嬉しいです。
Q.歌詞だけでなくアレンジや音作り、楽曲に落とし込まれているエッセンスが明らかに若者のソレとは違うんですよ。でもちゃんと若さもある。そこが本当に面白い。
仲井陸:最近の音楽とか本当に知らないですからね。だからやりたいことをやってるだけですよ。
Q.奇をてらったり、誰かと違うことがしたいんじゃなくて、好きなことをやった結果、周りにはいないタイプの音楽が生まれたと。
仲井陸:ああ、それです。合わせにいくんじゃなくて、本当に好きなことしかやりたくなくて、だからこういうジャンルはこういう音楽をしなきゃ駄目とか、こういう恰好をしなきゃ駄目とか、そういうことに囚われたくないんですよ。だから今回の『こたつ』も好き放題やってるからバラバラな4曲だし。
Q.だから極論、みんながダンスにハマったら楽器を置いて踊っても良い訳だし、演歌を歌ってもいい訳で。それでもちゃんとThe Shiawaseは成立しそうですし。
仲井陸:うわ、演歌いいな
神谷幸宏:演歌いける?
仲井陸:いけると思う。かっこいいな。次のシングルでやっちゃう?
Q.ドレッドで演歌とか滅茶苦茶かっこいいですよ。だってワクワクしませんか?
仲井陸:ワクワクするしワクワクさせたい。
Q.The Shiawaseってどのシーンにもカテゴライズ出来ないし、だからこそどのシーンでもやっていけるなと。
木村駿太:どのジャンルにも友達が多いんですよ。「これ!」っていうジャンルがないから色んなバンドと対バンする機会が多いし。あとは陸の人柄もあるからすぐ仲良くなれる。
Q.分かります。打ち上げには絶対いて欲しいタイプだなと。
仲井陸:あははは。でも実は僕、根暗なんですよ。普段は部屋でひとりで小説を読んでいるようなタイプなんで。ライブ中の自分とか、The Shiawaseの仲井陸は自分じゃない自分なんですよ。
Q.自分で自分をプロデュースするような。2人から見て普段とのギャップはありますか?
神谷幸宏:いや、普段から結構うるさいですけどね。(一同笑)
木村駿太:たまにスイッチが切れてる時はあるけど。
仲井陸:0か100なんですよ。
木村駿太:あ、それ。
神谷幸宏:オフになるときが急過ぎて、急にスイッチが入ったり切れたりするから難しい(笑)。
Q.クラスに絶対いるタイプの、集合写真とかで一番前でちょけてるタイプなんだろうなって。
神谷幸宏:成人式の集合写真の陸がまさにそれ(笑)。
仲井陸:キメてやりました。
Q.よくニュースで見ますもん、こういう子(笑)。
仲井陸:かましてやりました。
Q.だけど楽曲を聴くとロマンチストな面もあって。
仲井陸:「ポテトサラダ」以外、全部ラブソングですからね。多分僕は一生片思いをし続けないといけない人間だと思っているんですけど。
神谷幸宏:分かる(笑)。
仲井陸:恋多き男なんですよ。すぐ好きになっちゃう。街を歩いていてすれ違った子とか電車に乗っていて向かいの席に座った子と、すぐ好きになる。それで曲が出来るんです。だから彼女がいるときは全然曲が出来ないんですよ。俺は誰かと付き合ったら駄目な人間なんだなって。
Q.幸せを求めるからこそThe Shiawaseであって、幸せになってしまったら話が変わってくると。
仲井陸:きっと俺は一生結婚出来ないですよ。幸せを求め続けて生きていきます。
Q.でもすぐ人を好きになってしまう気持ちは分かりますよ。コンビニのレジでお釣りに手を添えられると好きになりますもん。
仲井陸:分かるわー。キュンとしちゃいますよね。半勃ちですよ。
神谷幸宏:そこまではいかないでしょ(笑)。
Q.曲を書くモチベーションが女の子だとしたら「ポテトサラダ」は珍しい書き方をした曲なんですね。
仲井陸:そうですね。初めて書いた内容です。あとはもう本当に全部女の子の曲なので。
Q.「三重西小学校」もいいですね。
仲井陸:三重西小学校は僕の通っていた小学校なんですけど、あの頃の僕はいたずらっ子で、学校のあらゆるトイレのティッシュペーパーをガラガラって廊下の真ん中まで引っ張ってきて学校の中心に集めるいたずらをしていて。そういう騒ぎを起こしてそれを見て笑うのが好きだったんですよ。
Q.それ、どういうお笑いですか(笑)。
仲井陸:そんなことばかりしてたから恋が実らなくて。
Q.それは女の子の気を引きたかったとか?
仲井陸:それはめっちゃあったと思います。目立ちたかったから隣のクラスに好きな子がいたときなんて、ずっと大声出してましたもん。
Q.この曲は幼馴染の結婚がテーマになっていますが、これは実話ですか?
仲井陸:実話ですね。三重西小学校の頃に好きだった子が結婚しちゃう曲です。一緒に帰った通学路とかで「大きくなったら結婚しようね」とか約束してたんですよ。でも小学生の口約束なんて実現する訳もないじゃないですか。だけど俺はあの約束をずっと覚えているんですよ。
Q.この曲ではピアノも入っていますが。
仲井陸:「三重西小学校」のテーマになっている僕の好きだった女の子がピアノをやっている子だったので。そういう意味もあって大学のピアノストの友達に弾いてもらいました。
Q.その大学のピアニストは女の子ですか?
仲井陸:男の子です(笑)。
Q.良かった。また好きになるんじゃないかって。
仲井陸:あははは。そしたらまた曲が出来そうですね(笑)。
Q.話していて気付いたんですけど、「ポテトサラダ」とか「三重西小学校」というちょっと変わったタイトルを付けるのは照れ隠しなのかなって。タイトルでちょっと気持ちを誤魔化すみたいな。
木村駿太:センスが光ってますよね。ラブソングに「三重西小学校」とかつけないですもん。
Q.もしカラオケでこの曲を見つけたら「なんで校歌がカラオケ入ってるんだろう」ってなりますから。
仲井陸:あははは。校歌だ(笑)。
Q.でもこの楽興出身の人は「あれ?」って思いますよね。それでThe Shiawaseを聴くかもしれないし、その好きだった子にも届くかもしれない。
仲井陸:結局俺は気付いて欲しいんですよ。「三重西小学校」なんてその子に気付いて欲しくて作った曲なんで。
Q.今は連絡とか取ってないんですか?
仲井陸:取ってないですね。
Q.じゃあもしその子がこの曲を聴いたら「私のこと?」って思うかも知れないですね。
仲井陸:ああ、気付いて欲しい。そして離婚して欲しい。
Q.最低だ(笑)。
仲井陸:俺がバンドを始めたきっかけも嫉妬からなんですよ。昔、6年間片思いしていた子にフラれたんですけど、その子がヴィジュアル系バンドが好きだったので、俺もバンドをやって見返してやろうと思ったのがきっかけなんです。だから最初はヴィジュアル系バンドをしようと思ったんですけどこんな顔だから(笑)。でも原点はそこにあるから、The Shiawaseはずっとそういう歌を歌っていくと思います。
Q.ちなみにどの曲にも誰か明確なモデルがいるのですか?
仲井陸:いますね。大体一緒の子なんですけど。その6年間片思いしていた子に向けて書いています。「三重西小学校」だけ違う子なんですけど。だからもしその子と結婚出来たらThe Shiawaseは解散です。(一同笑)
Q.「土の匂いは忘れたかい」もその子に向けた曲ですか?
仲井陸:あれは東京の女の子の曲ですね。僕は田舎育ちなんですけど、東京の都会の子に恋をして出来た曲です。
Q.東京の子も好きになっているんですね(笑)。
仲井陸:俺、すぐ好きになりますから(笑)。
Q.そうやって誰かを好きになって、誰かにフラれて、良い曲を書き続けて欲しいです。幸せにならないで、幸せを求め続けることでThe Shiawaseが続いていくと。
仲井陸:The Shiawaseを聴いて幸せになってくれる人がいるなら俺自身は幸せじゃなくてもいいんですよ。俺ひとりくらいが幸せじゃなくても、この世界の何億人もが幸せになったらそれでいいんですよ。それが俺の幸せに変わるので。
神谷幸宏:やっぱり陸は幸せにはなっちゃいけないよね。このバンドを続ける限り。
Q.誰かの幸せを幸せと思えることって凄く幸せですよね。だから陸さんは一生そのままでいて下さいね。
仲井陸:一生ひとり…。まあでも俺にはメンバーがいますから。俺みたいなわがままな人間と一緒にいてくれるメンバーがいることがもう俺にとっては幸せなので!
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The Shiawase
タイトル:こたつ
1000円(税込)
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